関節リウマチで使用する薬

生物学的製剤とは

生物学的製剤とは、これまでの薬剤のように化学合成によって作られたものではなく、遺伝子組換技術や細胞培養技術などのバイオテクノロジーを使って開発された薬剤です。
働きとしては、特定の分子を攻撃し、その働きを止める役割を果たします。効果は非常に高く、日本では、現在関節リウマチの治療に使用出来る生物学的製剤は8種類あります。
全てが皮下注射、または点滴による投与であるため、すぐに効果を得られることが多いのが特徴で、早い人は1~2週間で効果を実感出来ます。 薬効のタイプとしては、リウマチの原因物質(TNF、IL-6)を抑えるもの、原因細胞であるTリンパ球を抑えるものがあります。
これら8種類の製剤を患者様それぞれの状態に合わせて選択し、投与していきます。 なお、生物学的製剤の働きは、免疫反応を抑えることにありますので、副作用として、免疫機能の低下によって感染症などを起こしやすくなります。
そのため、投与前に感染症の有無をチェックすると同時に、投与後の管理も慎重に行う必要があります。
また、デメリットとしては、まだ薬の価格が高いという点もあります。

生物学的製剤の治療を
お勧めしたい方

痛みなどの症状が強く、
できるだけ早く改善したい

症状が強く痛みや腫れが特に激しく、出来るだけ早く改善させたいケースでは、生物学的製剤の注射または点滴と、内服薬の併用が効果的です。
生物学的製剤は効果の現れ方が早いため、その後の服薬を減らしていくことも期待できます。

リウマトレックス(MTX)などの服薬治療で思うような
効果が出ない

抗リウマチ薬のリウマトレックス(MTX)は最もポピュラーなリウマチ治療薬で当院でも第1選択薬として多くの患者様にお勧めしておりますが、内服薬のため、期待するほど効果が得られないケースもあります。
リウマトレックスを十分量かつ一定期間継続服用しても効果が得られそうにない患者様には、生物学的製剤への移行をお勧めしています。

リウマトレックスなどを
服薬すると吐き気や倦怠感などが強く出る

抗リウマチ薬の代表であるリウマトレックスは内服薬で、服用すると悪心・嘔吐など胃腸症状の副作用が強く出る場合があります。
その場合、葉酸の事前投与や胃薬(プロトンポンプ阻害薬:PPI)などを併用して抑えることも出来ますが、それでは薬の量が増えてしまいます。
生物学的製剤は、皮下に直接投与するため、胃腸症状の副作用はほとんどありませんので、こうした副作用の強い患者様にもお勧めです。

妊娠を考えている

リウマトレックスなどの内服薬や、生物学的製剤でも何種類かの薬剤は胎児に影響を与えたり、母乳に混じって乳児に影響を与えたりすることが知られています。
しかし、生物学的製剤の中でも、エンブレルとシムジアは胎盤を通過しないため、妊娠中でも投与が可能です。
また、生物学的製剤は原則として母乳栄養の中止をお勧めしていますが、TNF阻害薬は母乳への移行が少ないことも知られておりますので、授乳の継続については医師とよく相談するようにしてください。

内臓の機能が弱っている・
飲み薬が多すぎてつらい

関節リウマチ治療薬だけで、何種類かの薬を服用している方で、その他にも生活習慣病などの治療薬を服用している割合は高いです。そのため、どうしても、薬の服用による胃腸障害の他、肝臓や腎臓への影響が見られることもあります。
そうしたケースでは、少しでも服薬量を減らすためにリウマチ治療薬を生物学的製剤に移行することをお勧めする場合もあります。

生物学的製剤を使用した治療に関するご注意

生物学的製剤は免疫抑制を大きな目的としています。そのため、投与中は感染症のリスクが高まってしまうという点が問題です。しかし、この問題は生物学的製剤だけではなく、抗リウマチ薬の内服でも同じことが言えますので、注意が必要です。

当院で治療に使われる
主な生物学的製剤

レミケード
(インフリキシマブ)

レミケードは2002年に我が国で初めて使用可能となった生物学的製剤で、関節リウマチの発病、増悪に関与する炎症性サイトカインであるTNFの働きを阻害する薬です。初回、2週目、4週目のあとは8週間毎の投与となるため2次無効となる方が出てきてしまうことがあります。
その場合には投与間隔の短縮で対応いたします。点滴で投与する薬ですが内服薬であるメトトレキサートとの併用投与が必須となっています。2018年には後発薬であるインフリキシマブBSが登場し、価格面の負担も軽減されました。

エンブレル
(エタネルセプト)

エンブレルはTNFの受容体と免疫グロブリンを融合したもので、副作用が少なく、安全性の高い薬です。高齢者や妊娠中、授乳中の方にも安全に使用出来るものです。1週間に2度の皮下注射で投与します。
2018年には後発薬であるエタネルセプトBSが登場し、価格面の負担も軽減されました。

アダリムマブBS・ヒュミラ
(アダリムマブバイオシミラー、アダリムマブ)

免疫物質であるTNFの活動を抑える薬で、関節リウマチ以外の自己免疫疾患などにも使用出来る薬です。2週間に1度の皮下注射で投与します。
内服の抗リウマチ薬であるメトトレキサートとの相性が良く、比較的進行の早い患者様などに幅広く使用されています。2021年に後発薬のアダリムマブBSが発売され、価格面の負担も軽減されました。

シムジア
(セルトリズマブペゴル)

部分的な遺伝子操作によってTNFと結合しやすいように工夫されている薬です。また胎盤を通過しないことが確認されており、妊娠中の方も安心して使用出来ます。
皮下注射で投与し、初回、2週目、4週目の3回のみ2倍量を使用しますので、効果が早く現れやすいという特徴があり、症状が強い人にも適しています。

シンポニー
(ゴリムマブ)

完全にヒト抗体型の薬で、TNFとの親和性が高くなっています。4週に1度の皮下注射で使用しますので、患者様の負担が軽減できます。内服の抗リウマチ薬であるメトトレキサートとの併用か、または単独使用の場合は2倍量の投与を考慮します。

アクテムラ
(トシリズマブ)

TNFと同様の炎症性サイトカインの一種であるIL-6に作用する薬です。ヒトの抗体に近いヒト化抗体の製剤で、他の薬とは作用のメカニズムが異なるため、他の生物学的製剤では十分に効果が得られない場合にも有効です。
皮下注射または点滴で投与し、内服薬との併用ではなく単独で使用できます。

ケブザラ
(サリルマブ)

TNFと同様の炎症性サイトカインの一種であるIL-6に作用する薬です。アクテムラよりもよりヒトの抗体に近い完全ヒト化抗体の製剤です。アクテムラ同様他の生物学的製剤では十分に効果が得られない場合にも有効です。
2週間に1度の皮下注射で投与し、内服薬との併用ではなく単独で使用できます。

オレンシア
(アバタセプト)

唯一関節リウマチの発病、増悪に関与するサイトカインを抑えるのではなくリンパ球の一種であるT細胞を攻撃し、免疫細胞を抑える薬です。内服薬の併用が無くても効果が得られます。
比較的安全性が高く副作用が少ないため高齢者にも安心して使用できます。皮下注射、または点滴で投与します。

JAK阻害剤

関節リウマチの関節炎は、TNFやIL-6といった炎症性サイトカインが細胞を刺激することで起きてきますが、JAK阻害薬は炎症性サイトカインによる刺激が細胞内に伝達するときに必要なヤヌスキナーゼ(Janus Kinase:JAK)という酵素を阻害する内服薬です。基本的にはメトトレキサートおよび上記注射薬で効果が不十分な場合に使用されます。
わが国ではゼルヤンツ(トファシチニブ)、オルミエント(バリシチニブ)、スマイラフ(ペフィシチニブ)、リンヴォック(ウパダシチニブ)、ジセレカ(フィルゴチニブ)の5種類が承認されています。注射薬ではなく飲み薬のため投与は簡便になりましたが、どの薬も感染症、特に帯状疱疹の発症率が高くなることが知られており注意が必要です。

関節リウマチ以外の
代表的な膠原病疾患

全身性エリテマトーデス(SLE)

自己免疫によって全身の臓器に炎症性の障害が起こります。発症の原因はよく分かっておりませんが、この疾患では免疫に関係するBリンパ球が異常増殖して、全身の臓器の細胞を攻撃してしまうことによって炎症が起こると考えられています。 全身性エリテマトーデスを発症すると、特徴的なループス腎炎など様々な臓器に合併症が起こるため、厚生労働省による難病指定となっており、日本での患者数は6~10万人程度と推定されています。
ステロイド薬や免疫抑制薬などを、症状に合わせて点滴や内服で使用して寛解に導き、その後寛解時期を出来る限り長く続ける治療を目指します。
なお、難病指定の疾患には医療費助成などの制度があります。当院にて診断書の作成が可能です。詳しくはお住まいの地方自治体にお問い合わせください。

多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)

自己免疫によって、筋肉に炎症が起こります。そのため、痛みや疲労感、力が入りにくいといった症状があり、皮膚に炎症性の紅斑が現れる場合は皮膚筋炎と呼ばれます。
間質性肺炎や悪性腫瘍などを合併することもあり、厚生労働省により難病に指定されています。 治療は免疫抑制剤やステロイド薬を使用します。
難病指定の疾患は医療費助成の対象となっています。当院にて診断書の作成が可能です。詳細はお住まいの地方自治体にお問い合わせください。

全身性強皮症(SSc)

全身の各所で皮膚や内臓が硬くなったり、繊維化したりする疾患です。原因ははっきりとは分かっていませんが、自己抗体を作ってしまう免疫異常、線維芽細胞の活性化による繊維化、血管障害などが合わさって発症すると考えられています。
この疾患も厚生労働省によって難病に指定されています。 指先が冷えて白くなるレイノー現象が特徴的ですが、指先などに潰瘍が発生したり、皮膚の色素変化が起こったりします。
皮膚の硬化が手に限局する限局型と、皮膚硬化が全身におよぶ全身型に分類されます。このうち全身型は皮膚硬化だけではなく、心臓、肺、腎臓、消化管といた重要内蔵器に病変がおよぶことが知られています。幸い全身型を発症するのは稀で、ほとんどは重要内蔵病変を伴わない限局型です。
根治に導く治療方法はまだ開発されていませんが、近年ではそれぞれの症状に対する特効的な治療薬が開発されており、症状に合わせて投与することで、病状を進行させず良い状態を保つことが可能になっています。
なお、難病指定の疾患は医療費助成の対象となっています。当院にて診断書の作成が可能です。詳細はお住まいの地方自治体にお問い合わせください。

混合性結合組織病(MCTD)

全身性エリテマトーデス、多発性筋炎、全身性強皮症のうち2つ以上を合併した形で現れる疾患です。自己抗体である抗U1-RNP抗体が血液中で異常な高値を示すことが特徴的です。 症状は手足の指先が冷えて白くなるレイノー現象や手指の皮膚硬化、多発関節炎、肺高血圧などが起こります。
治療は免疫抑制薬とステロイド薬を併用して行います。重篤な合併症を起こすこともあるため、出来るだけ早い治療開始が大切です。 この疾患も厚生労働省の難病指定を受けていますので、医療費助成の対象となっています。
当院にて診断書の作成が可能です。詳細はお住まいの地方自治体にお問い合わせください。

シェーグレン症候群(SS)

自己免疫によって、主に涙腺や唾液腺などで炎症が起こり、特定の臓器だけに症状が認められる臓器特異的疾患です。全身性エリテマトーデスや強皮症などと合併することも多い疾患で、女性に多く、女性ホルモンとの関連性が考えられています。厚生労働省の難病に指定されています。
ドライアイ、ドライマウスなどが主な症状で、その他鼻腔の乾燥、膣の乾燥などが起こる場合もあります。現在のところ根治療法が発見されていませんので、ドライアイ、ドライマウスなどそれぞれの症状に合わせた対症療法と免疫抑制剤などの併用を行って、全体の症状を抑えていきます。
難病指定の疾患は医療費助成の対象となっていますが自治体により指定が異なりますので、詳細はお住まいの自治体にお問い合わせください。

リウマチ性多発筋痛症(PMR)

リウマチ性多発筋痛症は頸部、肩甲帯部、上腕(二の腕)、腰、大腿部(太もも)に急激に痛みやこわばりが生じる原因不明の炎症性疾患です。50歳以上の中・高齢者で、女性に多く発症(1:2)する傾向があります。
また少数例ながら側頭動脈炎を合併することがあり、側頭動脈炎は失明のリスクのある疾患ですので、全身痛に加え強い頭痛を伴う場合は注意が必要です。 治療としては側頭動脈炎の合併がなければ低~中等量のステロイド剤が著効する予後良好な疾患ですが、関節リウマチ同様、早期診断、早期治療が重要な疾患です。
側頭動脈炎を合併している場合には、入院のうえステロイド大量療法が必要となります。本症のことを熟知したリウマチ科医であれば診断は容易ですので、原因不明の痛みでお困りの方はお早めにリウマチ科を受診してください。

RS3PE症候群
(Remitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edema)

RS3PE症候群とは、Remitting(予後良好)、Seronegative(血清反応陰性)、Symmetrical(左右対称)、Synovitis with Pitting Edema(圧痕を形成する浮腫を伴う対称性滑膜炎)の頭文字より名づけられた原因不明の炎症性疾患です。適切な日本語名がないため、いまだにRS3PEと称されています。
急激な発症、50歳以上の中・高齢者に多い傾向など、リウマチ性多発筋痛症との区別が困難な場合がありますが、男女比は1:1~2:1とやや男性に多く、リウマチ性多発筋痛症の痛みは全身の筋肉が主体であるのに対し、本症の痛みは全身の関節が主体です。
さらに本症では両方の手の甲、足の甲に指で押すと痕が残るむくみを伴うことが特徴で鑑別に役立ちます。 治療もリウマチ性多発筋痛症と同じく低~中等量のステロイド剤が著効する予後良好な疾患ですが、関節リウマチ同様、早期診断、早期治療が重要な疾患です。
また悪性腫瘍(いわゆる癌)の合併が多いのも特徴であり本症が疑われた場合には全身の癌検索が必要です。本症のことを熟知したリウマチ科医であれば診断は容易ですので、原因不明の痛みでお困りの方はお早めにリウマチ科を受診してください。

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